大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 平成8年(ワ)5016号 判決

原告

北海道自動車交通共済協同組合

被告

栗山産業株式会社

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一一〇六万六六八一円及びこれに対する平成六年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告の組合員の従業員を加害者とする交通事故に基づく損害賠償債務について右組合員に共済金の支払をした原告が、右交通事故は右従業員と被告との共同不法行為に当たると主張して、被告に対し、右共済金のうち被告の過失割合に相当する額の求償をした事案である。

一  前提となる事実

1  株式会社サツイチの従業員である大畠隆喜は、平成五年一〇月一一日午前六時五五分頃、札幌市東区北二一条東二一丁目一番先路上において、サツイチの業務として大型貨物自動車(以下「本件車両」という。)を運転し、市道鉄東中央線(以下「本件道路」という。)を北に向かつて走行中、ハンドルを右転把して本件車両を対向車線に進出させ、対向して来た山本眞一運転の普通乗用自動車に本件車両を衝突させた結果、山本を死亡させ、右普通乗用自動車を損壊した(乙一ないし乙四、乙八ないし乙一〇、証人大畠)。

2  本件道路の西側に接して所在する被告経営にかかる開成給油所は、本件事故当時、広告宣伝のため、同給油所の入口と車道との間の歩道上の立木に、木製看板(以下「本件看板」という。)を針金で縛り付けて立てかけていたところ、本件看板は、車道上にはみ出していた(乙一、乙二、乙八ないし乙一〇、証人大畠)。

3  原告は、平成五年一二月二七日、サツイチとの自動車損害賠償責任共済契約に基づき、本件事故によつて山本に生じた損害の賠償として、三六八八万八九三七円を山本の相続人に支払つた(甲一、甲二、弁論の全趣旨)。

4  原告は、平成六年四月一九日、本件事故の発生について被告にも三割の過失があるとして、前記損害賠償額の三割に相当する一一〇六万六六八一円の支払を被告に請求した(争いがない。)。

二  争点

1  本件看板が車道にはみ出していたことと本件事故の発生との間に相当因果があるかどうか。

2  本件看板が車道にはみ出していたことが本件看板の設置保存の瑕疵に当たるかどうか。

第三争点に対する判断

一  証拠(乙一、乙二、乙四、乙八ないし乙一〇、乙一一の一ないし八、証人大畠)と前記前提となる事実によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、南北に走るアスフアルト舗装のされた片側二車線の市道上である。本件道路の車道の幅員は一三・四メートル、各車線のそれは三メートルで、道路両端から〇・五メートルの地点にそれぞれ外側線が引かれ、車道の両側に幅員三メートルの歩道が設置されている。本件事故現場付近では、本件道路は直線で見通しがよく、路面は平坦で、最高速度は時速四〇キロメートルに制限されており、終日駐車禁止の交通規制がされている。本件事故当時、路面は湿潤状態であつたが、雨は降つておらず、辺りは明るく、視界は良好であつた。

2  大畠は、本件車両(幅二四九センチメートル)を時速約五五キロメートルで運転し、本件道路の西端の車線を北進して本件事故現場手前にさしかかり、前方約三七・五メートルの地点(以下「甲地点」という。)に、黄色地に赤色と黒色のペンキで「洗車の達人」と記載された本件看板(高さ約二三〇センチメートル、横幅約九五センチメートル)が傾いて、本件道路の西端から約一・五メートルの所まではみ出しているのを発見した。ところが、大畠は、車線変更をせずにそのまま直線し、本件看板の手前約一二・七メートルの地点(以下「乙地点」という。)に至つて初めて本件看板との衝突の危険を感じ、ハンドルを右に急転把したが、本件車両の後部が左にスリツプしたため、急ブレーキをかけたところ、本件車両のエンジンが停止し、ハンドルが利かなくなつて、本件車両を対向車線に進出させた。

3  本件事故発生の前後において、本件車両以外に、通行車両が本件看板に衝突した形跡はない。

二  右認定のような、本件事故現場の道路状況、本件事故当時の気象状況、本件事故発生の時間帯、本件看板の形状、色等を考慮すると、大畠は、本件看板を甲地点よりもかなり手前の地点で発見できたと考えられるばかりでなく(証人大畠も証人尋問でそのことを認める証言をしている。)、大畠は、甲地点で本件看板を発見した時点においても、本件看板が本件車両の走行車線にはみ出している状況と本件車両の車幅とから、そのまま直進すれば本件車両が本件看板に衝突するおそれがあることを容易に判断し得たはずであり、しかも、その時点で適宜減速したり、車線変更をするなどの措置を講じていれば、容易に本件看板を回避して通過することができたはずであると考えられるのである。

ところが、大畠は、前方不注視の過失によつて、本件看板を発見するのが遅れたばかりでなく、甲地点でこれを発見したのに、そのまま直進しても本件看板と衝突することはないものと考え、減速も進路変更もしないまま進行した結果、乙時点に至つて初めて衝突の危険を感じて、ハンドルを右急転把し、本件車両をスリツプさせ、しかも急ブレーキを踏んだために本件車両のエンジンを停止させてハンドルの利かない状態にしたものである。

このような事故発生に至る経過からすると、本件事故は、専ら大畠の前方不注視、ハンドル及びブレーキの操作の不適切の過失によつて発生したものというべきであり、本件看板が本件事故現場の車道上にはみ出していたとはいえ、それによつて本件道路の交通の危険が増大し、その結果として本件事故が発生したということはできないから、本件看板が本件事故現場の道路にはみ出していたことと本件事故発生との間には、相当因果関係があるとはいえないものというべきである。

三  したがつて、本件事故が大畠と被告の共同不法行為に当たるとする原告の主張は採用できず、その他の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。

(裁判官 矢尾渉)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例